
「副業から起業したい。でも、何を始めればいいのか分からない」
「仕事は少し取れているけれど、会社を辞めても続けられるだろうか」
僕は、こうした悩みに対して、まず「退職するかどうか」と「事業を育てるために何をするか」を分けて考えてほしいと思っています。
副業から起業するために必要なのは、勢いで会社を辞めることではありません。誰のどんな困りごとを解決するのかを確かめ、お客様と出会う方法をつくり、目標に向けて行動と数字を見直していくことです。
僕自身の独立後の営業経験や、副業から独立した方との対話をもとに、会社員のうちから準備できることをお伝えします。
副業から起業はできる。起業・独立・法人化は分けて考えよう
会社に勤めながら、自分の事業を始めることはできます。起業は、必ずしも退職や会社設立と同時に行うものではありません。
この記事では、言葉を次のように整理します。
| 言葉 | この記事での意味 |
|---|---|
| 副業で起業する | 本業を続けながら、自分の事業を始めること |
| 独立する | 勤務先を離れ、自分の事業を仕事の中心にすること |
| 法人化する | 会社を設立し、法人として事業を営むこと |
まず副業として事業を試し、続けるか、独立するかを判断する。その後、必要に応じて法人化を検討する進め方もあります。
メリットは、生活を支える収入を保ちながら試せること
僕が大切だと思うのは、独立を決める前に事業を試せることです。
自分では良いと思ったサービスでも、お客様が買ってくれるとは限りません。副業の期間を使って、相談を聞き、提案し、提供して、反応を確かめる。その経験が、独立を考えるときの判断材料になります。
デメリットは、使える時間と体力が限られること
一方で、本業が終わってからの時間や休日には限りがあります。売上を増やそうとして仕事を受けすぎると、本業にも、お客様へのサービスにも影響しかねません。
副業だから自動的に低リスクになるわけではありません。大きな固定費を抱えたり、無理な納期で受注したりすれば、負担は増えます。
僕なら、売上目標と一緒に「週に何時間使えるか」「いくらまでなら試せるか」も決めます。挑戦することと、生活や健康を守ることは、両方必要です。
ステップ1|就業規則・時間・お金の条件を確認する
副業を始める前に、勤務先のルールと自分の使える時間・お金を確認しましょう。最初の条件を整理しておくと、無理のない事業の進め方を考えやすくなります。
勤務先の就業規則では、副業の可否だけでなく、申請や届出の要否、本業と競合する仕事の扱いも確認しておきたいところです。
始める前には、少なくとも次の項目を書き出してみてください。
- 本業や休息を圧迫せず、副業に使える時間
- 最初に必要な費用と、毎月かかる費用
- 売上が出なくても負担できる金額
- お客様への対応が可能な曜日・時間帯
- 家族など、生活を共にする人と相談しておくこと
開業や税務の準備も別に必要です。個人事業か法人かによって手続きは異なりますし、開業届、青色申告の申請、確定申告なども整理する必要があります。
提出期限や申告の要否は、適用条件や制度によって異なります。具体的な手続きは税務署や税理士などに確認してください。僕から一律の金額基準で判断を勧めることはしません。
ステップ2|副業の種類より先に「誰の困りごとを解決するか」を決める
仕事の種類から考えることもできますが、僕が先に考えてほしいのは、その仕事で誰の何を変えられるのかです。
「動画編集がいいですか」「コンサルティングなら起業できますか」と、職種から考える方もいると思います。
自分の経験や得意なことを使える仕事は候補になります。ただ、その力を必要としているお客様がいるか、何を解決できるかも確かめる必要があります。
アイデアの正解を、自分や詳しい人だけに求めない
ENERGIZEの事業開発キャンプで、メンバーが新規事業の方向性を僕に確認しに来たことがありました。そのとき、僕は「ペルソナに聞いて」と伝えました。
ペルソナとは、ここでは、その商品やサービスを届けたい具体的なお客様のことです。僕がそのお客様に当てはまらないなら、僕が良いと言うだけでは十分ではありません。
これは企業の新規事業開発の場での話ですが、副業でサービスをつくるときにも使える考え方です。
例えば、次のように整理できます。以下は考え方を示す例で、僕や受講者の実績ではありません。
| 自分ができること | 想定するお客様 | 最初に確かめること |
|---|---|---|
| 動画編集 | 動画を発信したい事業者 | 編集作業と企画の、どちらに困っているか |
| 文章を書くこと | 商品説明や情報発信に困る事業者 | どの文章が不足し、何が進まなくなっているか |
| 業務改善の経験 | 特定の業務に手間をかけている事業者 | どの作業に、どれくらい負担があるか |
「こんなサービスがあったらいいですか」と聞くだけでなく、実際に困った場面、今の対処方法、解決できていない理由を聞いてみてください。
そのうえで、小さな範囲で提案する。好意的な感想がもらえることと、お金を払って任せてもらえることは別です。
事業開発キャンプでも、アイデアが生まれた後は、実践しながら形が変わっていくと話しました。最初の案を守ることより、お客様の反応を受けて改善することを大切にしてほしいと思います。
出典:ENERGIZE主宰の「事業開発キャンプ」を2日間 完全密着。経営幹部100名が集まって真剣に新規事業について議論しました。
ステップ3|最初のお客様につながる営業の入口をつくる
スキルを身につけても、お客様と出会えなければ仕事にはなりません。ここでは、僕自身が独立後に新しい顧客との接点をつくった経験をお話しします。
僕が独立後に始めたのは、身近な人の名前を書くことだった
当時、僕は友人と企業の経費を改善する成功報酬型の事業を進めていました。
会社員時代のお客様とのつながりはありました。ただ、以前のつながりにはできるだけ頼りたくなかったことと、新しい事業では対象とする企業の規模が違ったことから、別の営業の入口が必要でした。
そこで、家族や高校・大学時代の友人など、連絡できる人の名前を手帳に書きました。記憶では、最初は30人ほどです。
大切なのは、その30人が直接サービスを買ってくれたわけではない、ということです。
僕は、どんな事業を始めたのか、どんな問題を解決したいのかを伝え、力になれそうな相手につないでもらえないかとお願いしました。その先の出会いが、企業への提案につながっていきました。
「経営者の知り合いがいない」と考えるだけでなく、今ある関係から、誰に何を伝えられるかを整理する。それが僕の出発点でした。
出典:秦卓民が独立直後に実践した「新規営業」のリアル。人脈ゼロから、どうやって大企業のアポを獲ったのか?
「紹介してください」だけでなく、相手の役に立つ関係をつくる
その後、僕の事業を支援してくれる営業の方と出会い、お互いの目標を応援し合う関係ができました。
そこで学んだのは、紹介をお願いするだけでなく、相手が何に困っているのかを聞き、自分からも役に立つことです。
副業で取り組むなら、まずは次の三つを言葉にしてみてください。
- 誰の、どんな困りごとを解決したいのか
- 自分は何を提供できるのか
- どんな人に話を聞いてもらいたいのか
もちろん、勤務先の顧客情報を持ち出したり、相手に紹介を強いたりしてよいという話ではありません。紹介する側にも、紹介される側にも、無理のない形で進めることが前提です。
僕の経験は、独立後の営業の話です。副業時代の実績ではありませんし、同じ方法で誰でも同じ契約が取れると保証するものでもありません。ただ、お客様と出会うための行動を具体化する参考にはなると思います。
ステップ4|納品予定だけでなく、事業を育てる計画をつくる
「今週中に動画を3本納品する」
これは必要な計画です。ただ、今ある仕事を終える計画と、事業を成長させる計画は同じではありません。目標から逆算して、今どこに力を使うかを考えます。
初めてなら、改善する指標は一つでもいい
KPIは、目標への進み具合を見るための指標です。
例えば、サービスを販売する事業なら、一定期間の売上を考えるために、次のように分解できます。
商談数 × 成約率 × 平均契約単価
これは単純化した売上の考え方で、利益や手取りを示す式ではありません。費用や納品に必要な時間も別に確認する必要があります。
ここで、全部を一度に改善しようとしないことです。
- お客様と話す機会がないなら、まず商談につながる接点を増やす
- 商談はあるのに契約されないなら、提案内容を見直す
- 受注できても負担が大きいなら、価格と提供範囲を見直す
僕は、初めてビジネスに取り組む人なら、最初の数か月は一つのKPIに絞ってもよいと話しています。時間の限られる副業なら、なおさら「今、何に集中するか」が重要です。
高い目標は、無理を増やすためではなく、やり方を変えるために使う
僕は計画づくりで、目標を大きくしたり、達成までの期間を短く置いて考えたりすることを提案しています。
その狙いは、同じ仕事を長時間続けることではありません。
今の受注方法だけで届かないなら、提案先を変える必要があるかもしれない。今の提供方法では時間が足りないなら、サービスの範囲や進め方を変える必要があるかもしれない。目標を変えることで、そうした選択肢を考え始められます。
ただし、高い目標は売上予測でも、成功の保証でもありません。生活費や支出の判断は、希望する数字とは分けて考えてください。
出典:【トップ経営者の計画術】目標達成・ブレイクスルーを起こす計画の立て方
新規営業を増やす以外にも、成長の方法はある
僕はコーチングを始めた頃、営業で受注を増やす一方、師匠から提供するコーチングの質を懸念され、新規営業を止められたことがあります。
そこで、既存のお客様への支援を厚くしました。追加のチームを支援したり、個別の相談に対応したりする中で、お客様の成果や信頼が増し、紹介にもつながりました。
ここから伝えたいのは「無料で仕事を増やそう」ということではありません。僕の場合は、営業を増やすのとは逆に、既存のお客様への価値提供に集中することが、次の仕事につながったということです。
副業でも、新規案件を追い続ける前に、今のお客様に十分な価値を届けられているかを見直してほしいと思います。
ステップ5|行動を振り返る日と、相談できる相手を決める
計画をつくっても、本業が忙しくなると後回しになります。だから僕は、目標だけでなく、行動を続ける環境も大切だと考えています。
僕が提供するBCCというビジネスコーチングコミュニティの食事会では、副業や独立に取り組む方々から話を聞きました。
Webマーケティングのコンサルティングをしている関さんは、副業を経て独立した方です。対話では、周囲が行動する環境に刺激を受け、それが習慣になったことや、これまでの仕事を目標と行動計画に合わせて設計し直したことを話されていました。
これは関さんの体験であって、僕自身の副業経験ではありません。また、特定の環境に入れば同じ成果が出ると証明するものでもありません。
その日の対話から、僕は「決断」「目標と計画」「環境」が共通する要素ではないかと整理しました。
副業で取り入れるなら、例えば2週間ごとに、次のことを振り返ってみてください。
- 決めた行動のうち、何を実行したか
- お客様からどんな反応があったか
- 売上・費用・作業時間はどうだったか
- 次の期間に何を変えるか
相談相手や仲間は、成果の大きさを競うだけでなく、うまくいかなかったことも話せる相手がよいと思います。
副業から独立するタイミングは、売上だけで決めない
「副業でいくら稼げたら会社を辞めていいですか」
僕は、この記事で一律の金額を示すことはしません。必要な生活費も、事業の費用も、仕事が継続する見込みも、人によって違うからです。
関さんは、会社員の給料を超えたことを独立の判断として語っていました。ただし、その経験をそのまま全員の基準にすることはできません。
独立を考えるときは、次の点を整理してみてください。
| 確認すること | 考えたい問い |
|---|---|
| 手元に残るお金 | 売上から経費や税金などの負担を考慮して、生活を支えられるか |
| 受注の継続性 | 一度の大型案件や、一社だけに依存していないか |
| 顧客獲得の方法 | 次のお客様と出会うために、何をすればよいか説明できるか |
| 提供する力 | 営業だけでなく、納品や顧客対応を続けられるか |
| 資金の余裕 | 売上減少や入金の遅れがあっても対応できるか |
| 独立する目的 | 本業を辞めて確保する時間を、何に使うのか |
「独立したら時間が増えるから売れるはず」だけでは、判断材料として足りません。
まだ確かめられていないことが多ければ、副業を続けながら検証する選択もあります。副業を続けることも、提供内容を変えることも、撤退することも、自分の事業を経営するうえでの判断です。
まとめ|最初に決めるのは退職日ではなく、次の行動
副業から起業を目指すなら、僕は次の順番で考えることを勧めます。
- 勤務先のルールと、使える時間・お金を確認する
- 想定するお客様に話を聞き、解決する課題を絞る
- お客様と出会うための営業の入口をつくる
- 目標と、当面集中する指標を決める
- 行動と結果を振り返り、独立の判断材料を増やす
僕が伝えたい「決断」は、この記事では、いきなり退職する決断ではありません。まず、事業を育てるための行動を選び、実行することです。
誰に話を聞くのか。誰に自分の事業を伝えるのか。いつ振り返るのか。
その予定を一つ決めるところから、副業から起業への準備を始めてみてください。


