
「自分の力で仕事をして、生きていきたい」
そう思って一人起業について調べても、肝心なことが分からない。「自分は何を売れるのか。そして、誰が買ってくれるのか」。
得意なことはある。でも、それをどう仕事にし、売上につなげればいいのか。その道筋が見えず、一歩を踏み出せない方もいるでしょう。
僕がまず伝えたいのは、一人起業の準備は、自分の中だけでは完結しないということです。
自分に何ができるかを考えるだけでなく、それを必要としている人に話を聞く。相手の困りごとと、自分の経験が重なるところに、仕事の可能性が見えてきます。
僕自身、独立後の顧客開拓は、手帳に知っている人の名前を書き出すところから始まりました。仕事や思いを伝え、紹介をお願いする。その接点が、やがて企業との契約につながりました。
一人で起業しても、誰の力も借りずに事業を続ける必要はありません。
この記事では、仕事の選び方から資金の準備、顧客開拓、事業を続ける計画まで、僕自身の経験を交えてお話しします。
一人起業とは?個人事業でも法人でも始められる
一人起業は、従業員を雇わず、自分を中心に事業を始める働き方です。個人事業主として開業する方法もあれば、一人で会社を設立する方法もあります。
「一人起業」は法律上の事業形態の名前ではありません。また、一人で始めても、専門家に相談したり、一部の仕事を外注したりすることはできます。
メリットは、自分で決めて小さく試せること
何を売るか、誰に届けるか、どこに時間を使うか。一人起業では、こうした判断を自分で下せます。思いついたサービスを少人数に提供し、反応を見ながら内容や価格を変える。そのように、小さく試しながら仕事をつくっていけるのが大きな利点です。
これまでの経験やスキルを生かす仕事なら、大きな設備投資をせずに始められる場合もあります。ただし、店舗や在庫が必要な仕事では、相応の資金がかかります。大切なのは、自分が使える時間とお金の範囲で、無理なく試せる形を選ぶことです。
デメリットは、仕事も判断も自分に集中すること
お客さんにサービスを提供するだけでは、事業は回りません。仕事を取るための営業も、請求や入金の確認も、経理も必要です。目の前の仕事に追われ、次のお客さんを探す時間がなくなることもあるでしょう。迷ったときに相談する相手がいなければ、判断まで滞ってしまいます。
僕は、こうした負担を「もっと頑張る」だけで乗り切ろうとしないほうがいいと思っています。自分が担う仕事を絞り、人の力を借りることも、事業を続けるために必要な判断です。
経理を専門家に任せる、迷ったら信頼できる人に相談する。自分の時間と力をどこに使うかを決めることも、大切な経営の仕事です。
一人起業におすすめの仕事は?職種名より三つの条件で選ぶ
一人で始められる仕事には、例えば次のようなものがあります。
| 仕事の候補 | 生かせる経験・強み | 始める前に確かめたいこと |
|---|---|---|
| ライター・編集・翻訳 | 文章力、語学力、業界知識 | 誰のどんな制作課題に応えられるか |
| Web制作・動画編集 | 制作技術、企画力 | 営業や修正対応まで含めて採算が合うか |
| コンサルティング・業務支援 | 過去の実務経験、専門知識 | 相手の課題を具体的に解決できるか |
| オンライン講師 | 人に教えられる知識や経験 | 誰が何をできるようになる講座か |
| ネットショップ | 商品づくり、仕入れ、販売経験 | 原価、在庫、配送、集客の負担はどれくらいか |
ただし、ここに挙げた仕事だから成功しやすいと決めつけることはできません。
僕なら、候補を次の三つで見ます。
- 今の自分が、責任を持って提供できるか
- 困っていて、対価を払う相手がいるか
- 使える時間と資金の範囲で提供を続けられるか
例えば、文章を書くのが得意なら、そこからもう一歩考えます。どの分野に詳しいのか。その知識を必要としているのは誰か。どんな文章なら、お金を払ってでも任せたいと思ってもらえるのか。そこまで具体的にすると、自分が提供する仕事の形が見えてきます。
好きなことは、仕事を続ける力になります。ただ、それを必要とする相手がいなければ、売上にはつながりません。需要があっても、引き受けるたびに赤字になったり、無理な働き方になったりすれば、続けるのは難しいでしょう。
最初に考えたいのは、「何の職種で起業するか」よりも、「自分の経験で、誰のどんな困りごとを解決できるか」です。 まずはその仮説をつくり、想定するお客さんに確かめてみてください。
一人起業の始め方|僕が大切にしたい5ステップ
1.商品をつくり込む前に、想定するお客さんに聞く
「このサービス、どう思いますか?」
そう聞く相手が、友人や尊敬する経営者だけになっていないでしょうか。参考になる意見はもらえても、その人が実際に買う人とは限りません。
僕たちENERGIZEが主催した事業開発キャンプでも、メンバーが新しいサービスの方向性を僕に確認しに来た場面がありました。
そこで僕が伝えたのは、「僕に確認するのではなく、ペルソナに聞いて」ということです。僕がその商品の想定顧客ではないなら、僕の評価だけでは判断できないからです。
これは企業向けのキャンプでの話ですが、一人起業の商品づくりにも通じると考えています。
例えば、想定するお客さんには、次のように聞いてみます。
- 最近、その問題で困ったのはどんな場面ですか。
- 今はどう対処していますか。
- その方法の何が不便ですか。
- 解決のために、既に時間やお金を使っていますか。
これは質問の例です。「いいですね」という感想だけでなく、具体的な出来事を聞くことがポイントです。そのうえで、提供内容や価格を示し、依頼する意思があるかを確かめます。
好意的な反応と、購入の意思は分けて考える。 頭の中だけで商品を完成させず、相手の反応を受けて直していきましょう。
出典:事業開発キャンプ密着動画内、「僕に確認しないで」「ペルソナに聞いて」と助言する場面。
2.生活と事業を続けるためのお金を整理する
やりたいことが見つかっても、すぐに会社を辞める必要はありません。副業として試せる状況なら、実際に依頼を受け、提供にかかる時間や費用を確かめる方法もあります。
ここでは、少なくとも次の四つを分けて書き出してください。
| 項目 | 書き出す内容の例 |
|---|---|
| 開始時の費用 | 機材、設備、サイト制作、設立関連費用など |
| 毎月の事業費 | ソフト代、通信費、家賃、外注費など |
| 生活に必要なお金 | 住居費、食費、税・社会保険の支払いなど |
| お金が入る時期 | 契約から入金までの期間、支払条件 |
売上は、そのまま生活に使えるお金ではありません。売上から経費などを支払う必要がありますし、契約しても入金が翌月以降になることがあります。
必要な備えは、家族構成や固定費、ほかの収入、入金までの期間で変わります。「何カ月分あれば絶対に安心」と一律には言えません。売上が見込みを下回る場合も考えて、追加投資の上限や、事業を見直す時期を決めておきましょう。
個人事業か法人かの選択とあわせて、開業・設立に伴う届出、税務、業種ごとの資格や許認可も確認が必要です。具体的な手続きや期限は、税務署、自治体、専門家などに確認してください。
3.最初の顧客開拓は、身近なつながりを書き出すところから
僕は独立したとき、会社員時代のお客さんとのつながりを持っていました。ただ、できるだけそのつながりに頼らず、新しく開拓したいと思っていました。
独立後、友人と一緒に進めたのが、企業の経費を改善し、成功報酬をいただく事業です。以前の仕事とは狙う顧客の規模も違ったので、新たに大きな企業への接点をつくる必要がありました。
そのとき僕がしたのは、手帳に知っている人の名前を書くことでした。家族、高校や大学の友人、塾の友人。最初は、感覚として30人くらいだったと思います。
大切なのは、その30人が直接お客さんになったわけではないということです。
僕は、自分が始めた仕事と、世の中の無理や無駄をなくしたいという思いを伝えました。そして、力になれそうな相手や、その相手につながる人を紹介してもらえないか、丁寧にお願いしたんです。
そこから紹介がつながり、後に企業との契約にもつながりました。僕の場合、入口は大企業の社長との直接の知り合いではなく、既に知っている人たちでした。
一人起業でも、次の順番で整理できます。
- 連絡できる人を書き出す。
- 誰のどんな問題を解決する仕事かを言葉にする。
- どんな人と話したいかを具体的に伝える。
- 相手に無理のない範囲で紹介をお願いする。
例えば、こんな伝え方です。
今、〇〇に困っている事業者向けに、△△を支援する仕事を始めています。もし同じ課題を持つ方がいれば、一度お話を伺えるよう、ご紹介いただけないでしょうか。
これは、僕が当時送った文章そのものではなく、考え方を実践しやすくした例です。
そして、紹介をお願いするだけで終わらないこと。僕自身、独立後に出会った営業の方と、お互いの夢を支援し合う関係をつくりました。「何に困っているのか」「自分にできることはないか」と、こちらからも聞くんです。
紹介は当然にもらえるものではありません。相手の意思を尊重しながら、互いに役立てる関係を育てていきましょう。
4.納品予定だけでなく、売上をつくる計画を持つ
以前、フリーランスの橋口さんと計画について話したとき、「今週中に動画を3本納品する」といった予定を立てていると聞きました。
もちろん、納期を守る計画は必要です。でも、それだけでは、事業をどう伸ばすかまでは決まりません。
僕がおすすめしているのは、大きな目標を決め、その達成に関わる重要な指標、つまりKPIを絞ることです。慣れている人なら三つ。始めたばかりなら、まず一つでも構いません。
例えば、次のように考えます。
- 見込み客との接点がないなら、商談の機会をつくる。
- 商談はあるのに契約にならないなら、提案内容を見直す。
- 契約が増えても採算が合わないなら、価格や提供範囲を見直す。
一度に全部を変えようとせず、今、事業が止まっている原因に集中するんです。
ただし、改善する指標を絞ることと、納期や資金繰りを見なくなることは違います。既存のお客さんへのサービスは守ってください。
僕自身、コーチングを始めた頃、師匠から新規営業を止められた経験があります。営業力に対して、提供するコーチングの質を懸念されたからです。
そこで既存のお客さんへの支援を厚くしたところ、お客さんの成果や信頼が高まり、紹介や継続にもつながりました。
この経験からも、僕は「新しいお客さんを増やすこと」だけが成長の方法ではないと考えています。既存のお客さんに、もっと役立てる余地はないか。その視点も計画に入れてほしいんです。
5.行動と結果を振り返る相手・時間を決める
計画を立てても、日々の仕事に追われると後回しになります。だから、行動を振り返る機会まで先に決めておきます。
僕が提供するビジネスコーチングコミュニティの食事会では、副業や独立に取り組む参加者の話を聞きました。その一人であるWebマーケティングのコンサルタント、関さんは、周囲が行動する環境によって自分も動き、それが習慣になったと話していました。
これは関さんの体験です。すべての人が同じ成果を得られることを示すものではありません。
その日の話を聞いて、僕が共通点として整理したのは、決断、目標と計画、環境の三つでした。
一人起業でも、事業上の判断を自分ですることと、振り返りまで一人で抱えることは別です。
例えば、同業者や信頼できる相談相手と、定期的に次の三つを確認してみてください。
- 決めた行動を、どこまで実行したか。
- お客さんから、どんな反応があったか。
- 次に何を変えるか。
必ず有料のサービスを利用しなければいけないわけではありません。まずは、自分の予算に合う形で、振り返りが実際に続く仕組みをつくることが大切です。
出典:副業で成果を上げた参加者との食事会の10:19〜11:32、13:34〜15:09付近。
一人起業で行き詰まったときは「量」以外も変えてみる
仕事が増えないと、もっと営業しよう、もっと発信しようと考えがちです。もちろん行動量が必要な場面はありますが、同じやり方を増やす以外の選択肢もあります。
僕は計画づくりで、行動を三つに分けることを勧めています。
- 今の成果を支える、絶対に外してはいけないこと。
- やったほうがいいと分かっているのに、やっていないこと。
- これまでとは逆の発想で試すこと。
例えば、一対一のサービスを少人数向けにできないか。新規営業を増やす前に、既存のお客さんの困りごとを聞けないか。対象顧客や提供範囲を変えられないか。
これは、思いついたことに大きなお金を投じようという話ではありません。今のお客さんへの約束を守りながら、小さく確かめるための発想です。
僕は大きな目標や短い期限を置くことも提案していますが、その狙いは、従来の延長では出てこない方法を考えることにあります。高い目標を立てれば収入が保証されるわけではありません。挑戦する目標と、生活を守る資金計画は分けて持ってください。
まとめ|一人起業の第一歩は、買う人との接点をつくること
一人起業では、仕事を選ぶことも、手続きを整えることも必要です。ただ、それだけでお客さんが生まれるわけではありません。
僕が最初に取り組んでほしいのは、次の三つです。
- 自分が解決できる問題と、その問題を持つ人を書き出す。
- 連絡できる人を整理し、想定顧客の話を聞く機会をつくる。
- 次の行動を一つ決め、振り返る日を予定に入れる。
自分には人脈がない、まだ準備が足りない。そう感じても、既にある経験やつながりを見直すところから始められます。
一人で起業しても、一人だけで答えを出す必要はありません。 お客さんに確かめ、人の力を借り、提供した結果から学ぶ。その積み重ねで、事業をつくっていきましょう。


