
「こんなアプリがあったら便利そう。でも、本当に使う人はいるのだろうか」
個人開発で収益化や継続利用を目指すなら、作り始める前に確かめたいことです。ただ、知人にアイデアを褒められたり、AIに「需要があります」と言われたりしただけでは、実際に使ってもらえるかは分かりません。
僕が新規事業の現場で大切にしているのは、答えを持っていそうな人ではなく、そのサービスを使う当事者に確かめることです。
個人開発の需要調査も、次の順番で考えると整理できます。
- 誰の、どんな場面を変えたいのか決める
- 競合と、今使われている代替手段を調べる
- 当事者の具体的な体験と、実現したい状態を聞く
- 小さな試作品を見せ、実際の行動を確かめる
- 分かったことを基に、開発・修正・保留を判断する
この記事では、僕自身の新規事業支援の現場での経験や、仲間・お客様との対話を、個人開発に置き換えて説明します。僕が個人でアプリを開発して成功したという体験談ではありません。
個人開発の需要調査で確かめるのは「課題・利用・支払い」
需要があるかどうかを、一つの質問だけで判断しないことが大切です。僕なら、少なくとも次の三つに分けて考えます。
| 確かめたいこと | 調べる内容 |
|---|---|
| 課題があるか | 誰が、いつ、何に困っているのか。現在どう対処しているのか |
| 解決策が使われるか | 提案した方法が生活や仕事に合うか。今の方法から切り替える理由があるか |
| 収益につながるか | 有料でも選ばれるか。利用者と支払う人が違う場合、誰が購入を決めるのか |
「困っています」は課題の手がかりです。しかし、それだけで「このアプリを使う」「この価格で買う」まで確かめられたわけではありません。
無料で試してもらう場合も同じです。使ってもらえたことには意味がありますが、支払いまで検証できたことにはなりません。
需要調査は、成功を保証する作業ではなく、次に何を確かめればよいかを明らかにする作業だと捉えてください。
ステップ1|「誰の、どんな場面か」を具体的にする
まずは、誰に話を聞けばよいのか分かるところまで、対象と課題を具体化します。プロフィールを細かく作ることより、困っている場面をつかむことが出発点です。
ペルソナはプロフィールより、困っている場面から考える
「忙しいビジネスパーソン向け」だけでは、誰に話を聞けばいいか分かりません。
例えば、営業を支援するアプリなら、次のように具体化できます。
一人で営業していて、商談後に改善点を知りたいが、相談できる同僚や上司がいない人。
これは、需要調査の対象を考えるための例です。年齢や居住地を細かく設定するより、まず「どの場面で、何ができずにいるのか」を言葉にします。
ENERGIZEの新規事業開発プログラム「DIVE」について、石井さんは、価値のある課題と、その課題を持つ顧客を特定するところから始めると説明しています。その後、インタビューや観察、相手の仕事を自分でも体験することを通じて理解を深めます。
DIVEは共同代表の生島たちが作り上げたプログラムで、僕自身がファシリテーションを担当しているわけではありません。石井さんとの対話でも、この進め方を聞いています。
出典:既存事業を超えるような新規事業を生み出すには? "計画的に" 新規事業を生み出す「3つのステップ」
詳しい人の評価と、使う人の需要を分ける
事業開発キャンプで、メンバーが僕に新規事業の方向性を確認しに来たことがありました。そのとき僕は「僕に確認しないで」「ペルソナに聞いて」と伝えました。
僕がそのサービスの利用対象者とは限らないからです。
技術に詳しい人には実現方法を、事業に詳しい人には計画の弱点を相談できます。でも、それと「利用者が欲しがっているか」は別の話です。
個人開発でも、開発者仲間の評価だけで終わらせず、想定する場面を実際に経験している人に話を聞いてください。
出典:ENERGIZE主宰の「事業開発キャンプ」を2日間 完全密着。経営幹部100名が集まって真剣に新規事業について議論しました。
ステップ2|競合だけでなく「今のやり方」を調べる
対象が見えてきたら、検索や既存サービスの確認で、現在の選択肢を整理します。似たアプリだけでなく、アプリ以外の解決方法も調べましょう。
調べたいのは、似たアプリの機能一覧だけではありません。表計算ソフト、紙のメモ、人への依頼、あるいは「不便だけれど我慢する」ことも代替手段です。
| 調べる項目 | 確認したいこと |
|---|---|
| 対象者と用途 | 誰の、どの場面に向けたサービスか |
| 料金・利用条件 | 無料と有料の違い、導入に必要な手間 |
| レビュー・利用者の発信 | どんな場面で評価され、何に不満があるか |
| アプリ以外の代替手段 | 現在どんな工夫で解決しているか |
| 乗り換えの障壁 | データ移行、学習、周囲の協力などが必要か |
検索するときも「営業支援アプリ」のような商品名だけでなく「商談 振り返り 方法」のように、利用者がやりたいことから探すと、代替手段を見つけやすくなります。
ただし、検索数やレビューだけで、自分のサービスの需要が確定するわけではありません。レビューを書いた人が想定顧客と同じか、料金や機能の情報が現在も有効かも確認が必要です。
競合があるなら「なぜ、それでは足りないのか」。見つからないなら「別の方法で十分なのか、それとも解決が難しいのか」。次のインタビューで確かめる問いを作りましょう。
ステップ3|「使いますか?」より、具体的な体験を聞く
競合や代替手段を調べたら、次は当事者に話を聞きます。アイデアへの感想ではなく、相手が実際に経験したことと、実現したい状態を確かめます。
過去の行動と、実現したい状態をセットで聞く
アイデアを説明して「どう思いますか?」と聞くだけでは、相手が気を遣って褒めてくれることもあります。
僕が営業の場で大切にしているのは、こちらの都合で情報を集めるのではなく、相手が実現したい状態を理解することです。「何が起きたら成功と言えますか」と、成功した状態を具体的にしていきます。
需要調査では、それに加えて、実際に起きた出来事を聞くとよいと思います。
以下は、個人開発向けに整理した質問例です。
- 最近、その作業をしたときの流れを教えてください。
- どこで手が止まりましたか。
- そのとき、どう対処しましたか。
- 今使っている方法の、良いところと困るところは何ですか。
- その問題は、どのくらいの頻度で起きますか。
- 何ができるようになったら、うまくいったと言えますか。
「こんな機能が欲しい」という要望が出たら、そのまま仕様にする前に「それが必要になったのは、どんなときですか」と聞いてみてください。機能の奥にある目的を理解するためです。
身近な相談の蓄積も、課題を見つける入口になる
僕は約2年間、フリーランスや経営者、一人社長の方々から相談を受け、回答してきました。その相談と回答を基に、ビジネスパートナーのユウスケさんが開発したのが「AI秦卓民」です。
動画では、営業やマインドセット、組織、目標設定などの相談が蓄積されていることが紹介されています。
ここから個人開発に応用できるのは、新しいアイデアをひねり出す前に、すでに繰り返し相談されていることを見るという考え方です。
ただし、これは僕が開発前に需要調査を設計したという話ではありません。企画・開発はユウスケさんによるものです。また、相談が多いことだけで、有料アプリとして成立するとは判断できません。
自分がアクセスできるコミュニティや仕事上の相談も、まずは課題の候補を見つける材料として扱いましょう。
出典:トップセールスの知見を学習したコーチングAIを公開!営業相談から商談フィードバック
ステップ4|完成品ではなく、小さな試作品で確かめる
話を聞いて課題が見えてきたら、次は解決策を小さく形にして見せます。最初から完成品を作るより、知りたいことを一つ決めて試すのがポイントです。
最小限の形で、知りたいことを一つ試す
石井さんはDIVEの説明で、簡単な試作品を作り、早期に顧客からフィードバックを得る重要性を話しています。完成品を作ってから売れないと分かるより、時間と費用の損失を抑えるためです。
個人開発なら、確かめたいことに合わせて方法を選べます。
- 価値が伝わるか:説明ページと試用希望フォームを用意する
- 操作の流れが合うか:画面案や操作できる試作品を見せる
- 結果に価値があるか:自動化前に、一部を手作業で提供する
- 実際の場面で使えるか:中心機能だけの試用版を使ってもらう
未実装の機能や手作業の部分は明示してください。できないことまで、できるように見せる必要はありません。
出典:既存事業を超えるような新規事業を生み出すには? "計画的に" 新規事業を生み出す「3つのステップ」
褒め言葉より「次の行動」を見る
事業開発キャンプで、ある提案に対して僕は「いい」と評価しながらも「あとは買うか買わないか」と話しました。
アイデアへの好意と、購入は分けて考える必要があります。
| 得られた反応 | 分かったこと/まだ分からないこと |
|---|---|
| 「便利そう」と言われた | 関心の手がかり。実際に使うかは未確認 |
| 試用に申し込んだ | 試す意思がある。利用や継続は未確認 |
| 実際の作業で使った | その場面で利用された。再利用するかは未確認 |
| 別の機会にも使った | 継続的な価値の手がかり。有料でも使うかは未確認 |
| 提示した条件で購入した | その人、その条件での支払いを確認。市場全体の証明ではない |
「AI秦卓民」の動画では、利用者の板橋さんが、直近の3件の商談すべてでフィードバックを受け、次の提案に生かそうとしていると話しています。また、一人で営業していると、他者から評価を受ける機会が少ないとも語っています。
これは板橋さんの利用体験です。僕自身の体験でも、成約率が改善したという検証結果でもありません。ただ「良かった」という感想より、いつ使い、何に役立てようとしたかが具体的に分かる点が、需要を考える材料になります。
出典:トップセールスの知見を学習したコーチングAIを公開!営業相談から商談フィードバック
ステップ5|反応を整理し、開発・修正・保留を決める
試作品への反応が集まったら、開発を続けるか、何を変えるか、いったん保留するかを考えます。少人数の反応だけで市場全体を判断せず、事実と解釈を分けて整理しましょう。
反応が弱い理由を、一度に決めつけない
反応がなかったとき、すぐに「需要がない」と結論づけないでください。
そもそも対象者に届いていないのか。説明が伝わらなかったのか。試したけれど役に立たなかったのか。それぞれ次に取る行動が違います。
営業資料の動画に登場した三原さんは、祐介さんの助言を受けて資料を改善し、提案の考え方も、自分のできることを伝える形から、相手の成功にどう貢献できるかを考える形へ変えたと話しています。
その時点で4件中4件が成約したと報告されていますが、資料だけの効果を切り分けた比較ではありません。
個人開発に引きつけるなら、反応が弱いときは「機能不足」だけでなく「相手にとっての価値が伝わっているか」も調べる必要があります。
出典:売れる営業資料の作り方|AI資料と手作りで“成約率がここまで変わる”
判断の根拠を、事実と解釈に分けて残す
調査結果は、次のように記録すると判断しやすくなります。
| 記録すること | 内容 |
|---|---|
| 仮説 | 誰が、どの場面で、何を必要としていると考えたか |
| 確認できた事実 | 相手が語った出来事、実際の利用や購入 |
| 自分の解釈 | なぜ使われた/使われなかったと考えるか |
| 未確認事項 | 継続利用、支払い、別の対象者でも同じか |
| 次の行動 | 中心機能を作る、対象や説明を変える、保留する |
具体的な課題があり、試作品も使われたなら、次の小さな開発に進む。課題はあるのに使われないなら、解決方法や利用条件を見直す。現在の方法で十分だという話が続くなら、対象の変更や保留を考える。
少人数の結果だけで市場全体を断定せず、まず自分が次に投じる時間に見合う根拠があるかを判断しましょう。
AIは調査の準備に使い、需要の証拠と混同しない
需要調査では、AIを使って検討のサイクルを速められる場面があります。一方で、AIの回答を実際の利用者の反応と同じものとして扱わないことも大切です。
AIには、質問案を作る、仮説の抜けを探す、インタビュー記録を整理する、といった準備を手伝ってもらえます。でも、AIが想定顧客になりきって「欲しい」と答えても、実在する人が使ったことにはなりません。
AIで準備を効率化したら、その分、当事者に話を聞き、試作品を使ってもらう機会をつくる。需要を確かめるのは、あくまで実際の利用者とのやり取りです。
まとめ|最初に作るのは、完成品ではなく「確かめる機会」
僕が個人開発の需要調査で勧めたいのは、長い調査報告書を作ることではありません。
「誰の、どんな場面を変えたいのか」を書き、その人の具体的な体験を聞き、小さな形で解決策を試す。そして、褒められたかどうかではなく、実際に使われたか、次の行動につながったかを見ることです。
専門家の評価、顧客の関心、実際の利用、支払いを一緒にしない。
まずは、想定する利用者に話を聞く機会を一つ作ってみてください。その対話が、作るべきものだけでなく、今は作らなくていいものも教えてくれるはずです。


