
「会社に頼らず、一人でできる仕事で起業したい。でも、自分に何ができるのか分からない」
Webライターや動画編集、コンサルタントなどの仕事を調べるところから始める人は多いと思います。店舗や在庫を持たず、自分の経験やスキルを使って始められる仕事もあります。
ただ、僕が独立を考えている方に伝えたいのは「一人で作業できる仕事」と「一人で事業として続けられる仕事」は違うということです。
技術を身につけても、お客様と出会えなければ売上にはなりません。反対に、営業ができても、受けた仕事をきちんと提供できなければ、次の依頼にはつながりません。
仕事を選ぶときには「何ができるか」に加えて「誰の役に立てるか」「その人とどう出会うか」「一人でどこまで提供できるか」をセットで考えてほしいのです。
この記事では、一人で起業する仕事の候補を整理したうえで、僕自身の独立後の経験から、顧客づくりと行動計画の考え方をお話しします。
一人でできる仕事で起業するなら?比較したい10の候補
まずは、代表的な選択肢を見てみましょう。以下は収入や成功しやすさのランキングではありません。仕事内容や設備、運営上の注意点を比べるための整理です。
| 仕事 | 提供するもの・活かせる経験 | 費用・設備の確認点 | 一人で受ける際の注意点 |
|---|---|---|---|
| Webライター | 記事や取材原稿。文章力、業界知識 | パソコン、通信環境、取材費など | 調査・修正まで含めた時間を見積もる |
| Webデザイナー | サイトや広告などのデザイン | 制作ソフト、パソコンなど | デザインだけか、実装・更新までかを明確にする |
| 動画編集者 | 動画の編集、字幕・音声の調整など | 編集ソフト、対応できる性能のパソコンなど | 素材の長さ、修正回数、納期で負担が変わる |
| エンジニア・プログラマー | システムやWebサービスの開発・運用 | 開発環境、検証環境、学習費など | 開発後の保守や障害対応も考える |
| オンライン秘書・事務代行 | 資料作成、日程調整などの実務支援 | パソコン、業務用ツールなど | 対応時間と扱う情報の管理方法を決める |
| コンサルタント・講師 | 専門知識を使った課題解決や指導 | オンライン環境、教材、必要に応じた会場など | 自分が支援できる範囲と成果物を具体化する |
| 翻訳者 | 文書や字幕などの翻訳 | パソコン、辞書・翻訳支援ツールなど | 語学力だけでなく対象分野の理解も必要 |
| イラストレーター | 広告・出版・Web向けのイラスト | 制作機器、ソフトなど | 使用範囲、修正、権利の条件を確認する |
| ネットショップ運営 | 仕入れ商品や自作品の販売 | 仕入れ、保管、梱包、販売手数料など | 制作・販売だけでなく発送や返品対応もある |
| ハウスクリーニング | 住居や設備の清掃 | 清掃用具、移動手段、保険など | 作業技術、安全性、移動時間を考える |
在宅を優先するなら制作・事務系、実務経験があるなら専門支援系、現場での作業が得意なら訪問サービス系が検討の入口になります。
ただし、初期費用が少ないことと、未経験ですぐ受注できることは別です。 とくに開発や専門的な助言は、提供できる品質と責任の範囲を見極める必要があります。
飲食、美容、士業なども独立の選択肢ですが、資格・許認可や設備の確認が必要です。「一人でできる」という理由だけで決めず、仕事の内容に応じて必要な条件を確認してください。
起業する仕事は「できること・顧客・提供範囲」で選ぶ
仕事の候補が見えてきたら、自分の経験を顧客の課題と結びつけ、どこまで提供するかを考えます。
まず、すでに持っている経験を棚卸しする
僕は、独立を考える方に、最初から「自分には何もない」と決めつけてほしくありません。
会社で担当してきた業務、人からよく頼まれること、繰り返し解決してきた問題。そこに仕事の材料があるかもしれません。
例えば、営業資料を作ってきたなら資料作成の支援、特定業界の知識があるなら記事制作や実務支援、事務の段取りが得意ならオンラインでの業務代行、といった候補が考えられます。これは選び方の例であって、その経験だけで受注できるという意味ではありません。
次に必要なのは、その力を求めている相手がいるかを確かめることです。
正解を起業家に聞く前に、買う可能性のある人に聞く
僕たちENERGIZEの事業開発キャンプで、メンバーが新規事業の方向性を僕に確認しに来たことがありました。
そのときに伝えたのは「僕に確認しないで」「ペルソナに聞いて」ということです。僕がそのサービスのお客様になる人でなければ、僕の評価が正解とは限らないからです。
一人で起業する場合も同じです。頭の中だけで「これは売れそうだ」と考え続けるより、実際に買う可能性のある人の話を聞いてみる。
例えば、こんなことを確認できます。
- 今、どんな作業や問題に困っているのか
- それを現在はどう解決しているのか
- 外部に頼むなら、何をどこまで任せたいのか
- 提案した内容や料金では、何が依頼の障害になるのか
これは「想定顧客に確かめる」という考え方を、起業準備向けに具体化した質問例です。
「いいですね」と言われることと、実際に依頼してもらうことは違います。話を聞き、提案し、反応を見て直す。その往復で、仕事の形を絞っていきます。
出典:ENERGIZE主宰の「事業開発キャンプ」を2日間 完全密着。経営幹部100名が集まって真剣に新規事業について議論しました。
「何でもやる」ではなく、受ける範囲を決める
一人で働くなら、自分の時間が事業の上限になります。
例えば動画編集でも、編集だけを受けるのか、企画・撮影・投稿まで担当するのかで、必要な時間も技術も変わります。これは提供範囲を考えるための例です。
仕事を決めたら、少なくとも次の項目を言葉にしておきましょう。
- 誰に、何を提供するのか
- 料金に含む作業と、含まない作業
- 納期、対応時間、修正の範囲
- 同時に対応できる件数
「できるだけ何でもやります」より「ここまでなら責任を持って提供できます」の方が、相手も依頼を判断しやすくなります。
最初のお客様はどう見つける?僕が独立後にやったこと
ここでは、僕自身が独立後に新しい顧客との接点をつくった経験をお話しします。誰にでも同じ結果が出る方法ではありませんが、最初の一歩を考える参考にしてください。
知っている人の名前を、一人ずつ書いた
僕は会社員として営業を経験してから独立しました。前職のお客様とのつながりはありましたが、できる限りそこに頼らず、新しい顧客を開拓しようと考えていました。
当時、友人と進めていたのは、企業の経費を改善し、成功報酬をいただく事業です。前職とは狙う顧客の規模も違ったため、新たな接点をつくる必要がありました。
そこで最初にやったのは、手帳に身近な人の名前を書くことでした。家族、高校や大学の友人、以前から連絡の取れる知人。最初は、僕の記憶では30人ぐらいです。
ただ、ここが大事なのですが、その30人から直接契約をいただいたわけではありません。
「こういう仕事を始めました」「こういう問題を解決したいと思っています」と伝え、役に立てそうな相手につないでもらえないか、丁寧にお願いしました。その先の紹介や出会いが、契約につながっていったのです。
だから、僕の経験を「人脈ゼロでもすぐ大企業と契約できる方法」と受け取ってほしくはありません。身近な関係を出発点に、接点を一つずつ広げたという話です。
出典:秦卓民が独立直後に実践した「新規営業」のリアル。人脈ゼロから、どうやって大企業のアポを獲ったのか?
「仕事をください」だけでなく、誰の何を解決するかを伝える
僕が当時伝えていたのは「世の中の無理無駄をなくしたい」という思いと、そのためのサービスの内容でした。
自分が困っていることを率直に話すのは大事です。でも「僕の売上をつくるのを手伝ってください」だけでは、相手も誰につなげばいいのか分かりません。
例えば、紹介をお願いする文章なら、次のように具体化できます。
今、○○業界の方に向けて、△△の作業を支援するサービスを始めています。もし、そのことで困っている方をご存じでしたら、まずお話を伺う機会をいただけないでしょうか。ご紹介が難しければ、どうぞお気遣いなく。
これは当時の文章の引用ではなく、考え方を基にした文例です。実際にできないことや、まだ出していない実績を書き足す必要はありません。
紹介してもらうだけでなく、自分も相手を支援する
僕の独立後には、互いの夢を支援しようと関係を築いた営業の方がいました。
その方は、まず僕の困りごとやサービスについて質問し、紹介につなげてくれました。僕も相手に役立つ人を紹介する。そうした関係を続けながら、ネットワークを広げていきました。
僕が大事だと思うのは「紹介してくれ」とお願いするだけの関係にしないことです。相手は何に困っているのか。自分には何ができるのか。そこにも目を向ける。
一人で起業することは、従業員を雇わずに始めることであって、誰にも頼らないことではありません。
もちろん、紹介は相手の厚意です。無理に求めたり、本人の了承なく連絡先を渡したりするのではなく、お互いが望む形でつながることが前提になります。
一人起業の計画は「納品予定」だけでは足りない
仕事を受ける準備と並行して、事業をどう成長させるかも計画しておきましょう。目の前の納品を終わらせる予定に加えて、目標に近づくための行動を考えます。
最初は、改善する数字を一つに絞っていい
以前、対談相手の橋口さんが「今週中に動画を3本納品する」といった計画を持っていると話してくれました。
それも大切な計画です。ただ、僕が提案したのは、目の前の仕事を終わらせる計画に加えて、目指す成果から逆算した計画を持つことでした。
売上を伸ばすなら、新しい相談を増やすのか、提案の成約率を改善するのか、提供価値を高めて単価を見直すのか。どこに力を集中するかを決めます。
僕は動画で重要なKPI、つまり進捗を見る指標を三つに絞る話をしましたが、初めて独立する人は一つでもいいと伝えています。
まだお客様がいないなら、最初からたくさんの数字を追わず「想定顧客と話せた件数」など一つに絞ってもいいでしょう。ただし、話すこと自体を目的にせず、何が分かり、提案をどう変えるかまで振り返ってください。
出典:【トップ経営者の計画術】目標達成・ブレイクスルーを起こす計画の立て方
売上目標と、一人で提供できる量を照らし合わせる
ここで、仮の数字で考えてみます。
1件5万円の仕事を月4件受ければ、売上は20万円です。仮に1件の提供に15時間かかれば、提供作業だけで月60時間になります。
さらに営業、打ち合わせ、修正、請求などの時間が必要です。そして売上20万円が、そのまま手元に残るわけではありません。
目標を立てたら、次の3つを一緒に確かめてください。
- その件数を受注するには、どんな行動が必要か
- 受注した仕事を、自分の稼働時間内で提供できるか
- 経費や税金・社会保険料などを考え、生活が成り立つか
僕は、従来より大きな目標や短い期限を置くことで、やり方を変える発想が出ると考えています。ただ、それは売上を保証する数字でも、生活費の見積もりでもありません。挑戦する目標と、資金が持つかどうかの確認は分けて考える必要があります。
新規営業を増やす以外にも、伸ばし方はある
僕自身、コーチングを始めた頃に、師匠から新規の営業を止められた経験があります。
そこで既存のお客様への支援を厚くしました。別のチームも支援したり、会議や個別のサポートに入ったりした結果、お客様との信頼が深まり、紹介や継続につながりました。
この経験は、売上を増やすために無償の仕事を増やせばいい、という話ではありません。一人で無制限に対応すれば、続けられなくなります。
僕が伝えたいのは、新規顧客を増やすことだけでなく、すでに選んでくれたお客様への価値を見直すことも、事業を伸ばす選択肢になるということです。
受注がない段階と、受注はあるけれど継続しない段階では、集中すべき行動が違います。
退職前に確認したい、お金と継続の準備
仕事の候補と顧客づくりの方法が見えてきたら、独立後の生活や事業を続けるための準備も進めます。
可能なら、小さく受注してから独立を判断する
僕が話を聞いたBCCの参加者には、副業でWebマーケティングのコンサルティングを行い、その後独立した関さんがいました。関さんは、会社員の給与を超えたことが独立の判断につながったと話しています。
ただし、これは関さんの経験です。僕自身の副業実績ではありませんし、誰もが同じ条件で独立できるわけでもありません。
僕なら、売上だけでなく、継続の見込み、かかる経費、働く時間、入金までの期間も含めて判断してほしいと思います。
必要な資金は、仕事や家庭の条件で変わります。「何か月分あれば必ず安全」とは言えません。副業で試す場合は、勤務先の規定や守秘義務なども確認しましょう。
個人事業か法人か、手続きも仕事と合わせて考える
一人での起業には、個人事業として始める方法と、法人を設立する方法があります。法人化そのものを起業のゴールにする必要はありません。
事業内容、取引先の条件、設立・維持の負担などを比較して選びましょう。税務の届出、記帳、退職に伴う健康保険・年金の手続き、業務ごとの資格・許認可も確認事項です。
制度の適用条件や期限は個別に異なるため、実際の手続きでは所管窓口や専門家に確認してください。
一人だからこそ、行動を振り返る相手を持つ
BCCの食事会で、関さんは、周囲が行動している環境に刺激を受け、自分の行動も習慣化できたと話していました。
僕はその日の話を聞き「決断」「目標と計画」「環境」が大切なのではないかと整理しました。あくまで、その場で聞いた経験からの考察です。
一人で働くと、目の前の納品だけで一週間が終わることがあります。だから、定期的に計画と結果を見直す時間を取る。必要なら、信頼できる同業者や相談相手に話してみる。
一人起業でも、一人だけで判断を抱え込む必要はありません。
出典:【BCC食事会】副業で成功する人の共通項が「3つ」あることを発見しました。
まとめ|仕事を選んだら、最初の一人に話を聞こう
一人でできる仕事は、Web制作や事務代行、専門知識を使った支援、ネット販売、訪問サービスなど、さまざまです。
その中から選ぶとき、僕が大切にしてほしいのは次の五つです。
- 自分が提供できる経験やスキルを整理する
- 買う可能性のある人に、困りごとを聞く
- 一人で責任を持てる提供範囲を決める
- お客様との接点をつくる行動を計画する
- 結果を見て、サービスと行動を修正する
僕自身も、独立後は手帳に知っている人の名前を書くところから、新しい顧客との接点をつくりました。
今日やることを一つ選ぶなら、候補の仕事を増やし続けるより「誰の、どんな問題を、自分なら支援できそうか」を一文にして、その相手に話を聞く機会をつくってみてください。
一人で起業するからこそ、人とつながりながら、続けられる仕事をつくっていきましょう。


